#14 王様とゴミと塵(チリ)
物哀しい風がいつも吹いている。
歳をとったら笑えなくなるんだ。
だから一生懸命笑う努力をしてでも笑ったほうがいいと誰かが言った。
笑ってみる。
笑ってみようとする。
笑ってるつもりなのに、自分の心はどこか醒めている。
そんな自分を見て笑ってる自分の笑いはいやらしい。
自分の脚で歩けない奴らに、歩こうとも考えない奴らに、今日も出会う。
世の中は平等なんかじゃないんだよ。
世の中、努力しても報われないかもしれんけど、努力しないで報われる可能性は塵ほど低い。
てなこと言っても、聞く耳がもう失くなった君たちには何も聞こえないんだろうね。
ああ、そうそう、年寄りは説教臭くっていけねえや。聞き流してくれ。
昔、偉い先生に言われた。
「オレは王様。お前はゴミにもなれない塵。
わかるか、塵は目に見えないってことなんだよ。
せめて努力して目に見えるゴミくらいにはなりなさいよ。」
毎日出勤したら、病院の一番奥の誰も行かないトイレの個室で、便器に腰掛け、「がんばれよ」って、何回も呪文のように唱えて、そして、微笑みを浮かべて、朝の検査室に向かうのが日課だった。
あの頃から、もう何十年も経つけど、今でもあのトイレのことはありありと思い出せる。
果たして、おれが塵からゴミになって、そして現在どこまで来たかは謎だが。
(読んでる諸君、おれのこと「今はお前エラそうに王様ヅラしてるだろが?」とか思ったヒト少なからずいるでしょ。でもね、世の中ってそんな甘いもんやおまへんで、上見たらきりなんてない、おれなんてまだまだ真ん中より下くらいで、とても自分を裸の王様だなんて言えない日々なんですよ。)