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だからオレは泌尿器科医でおしっことちんちんの医者なんだってば!(2)

生きる速さで書きなぐることができたらいいのだけど・・

#113 厭世歌 (2014version)

poetry,and any creation
 
由実は脇の下にびっしょり汗をかいている。
 
造り物のヤシの木の鉢植えが、壁際に置かれている。
木製のラウンドなテーブルの上の銅製のコーヒーグラスを取るためにソファから手を伸ばす時、由実の腋臭が宙に微香となって拡がってゆく。
それはそして決して嫌な香りではない。
ボクはスマホのボタンを押して時間を確認する。エアコンの低いうねりが部屋を海岸沿いのリゾートに変える、わけもない。窓の外にはもう夕闇が近づいてきている。路面電車の音がかすかに聞こえる。
「いつまでこうしてるのかな」水面に空気を吐き出す金魚のように由実が言う。
死んだ時間を何とかごまかして生きている。でもそれは今に始まったことではない。生まれた時から死んでいるのだ。新しいことなんて何もない。退屈をやり過ぎためにはしゃいだふりをして、まだ若いのにすっかり年老いてしまった。ふたりとも。
「夜にはSさんとこの宴会だからね、もうチョットしたらシャワーをあびるといいよ・・で、明日の朝は朝でBBQで早いからね、お酒は控えたほうがいいと思うよ」
誰かの口がコトバを紡ぎだす。他人の声のように聞こえる。いつものように彼女を抱き、精子を出して、イビキをかいて眠り、太陽を待つ。
 
2 
 
でも、いつもの朝は来なかった。
 
由実の手は決して動くことはなかったし、もう笑うことも泣くこともなかった。
「わたしたちは毎日自分の埋葬パーティを生きてるんだわ、だからせめて陽気に振る舞わなくっちゃね」
それが酒を飲んだときの由実の口癖だった。そして彼女は陽気に踊り、何曲も歌って、またグラスを重ねた。
でも、死んでからも彼女が消えることはなかった。今もそこのソファで彼女は、横たわり、3mくらい先の何かを見つめた焦点の合わない瞳でボクを見ている
彼女は幻想なのかそれともリアルな存在なのか。そんなことはわからない。だってこの自分ってやつにしたってそもそも生きてる存在なのかどうかってこと自体があやふやなもんだろうから。
 
3 
 
この夏という季節が終われば、ボクらはまた下を向いて、来年の夏を待ちわびながら、暗く長い冬を過ごすのだろう。
この見えない球体の中に閉じ込められて逃げ出すことはできないんだから。
 
そんなふうに、今もあるのかどうかわからない「COCO」っていうランジェリー・パブの待合いで男と話した記憶がある。
なぜか、自分の番はいつまでたっても来なかったのだ。だから暇に任せて隣の男と話し込んだんだ。こんな店でね。
男は自分のことを魔法使いだと言った。あんちゃん、魔法使いってやつはね、実は生まれた時からもう呪いをかけられてるんで、残念ながらこの俺様には他の職業選択肢がなかったんだよ。わかるかい。そしておれが消滅しても決して呪いってやつは解けないときてるんだなこれが。ははは、男はつらいよっていうのはまさにこのことだね。そう言いながら、男は現世での**さんの呼び名で呼ばれると、さっそうと腰を上げてゲートをくぐっていったんだけど、あのランパブのゲートの向こうはホントはランジェリーのお姉ちゃんどころか妖魔の集うハードな世界だったのかもしれないな。
というのもボクは店の外におしっこに行ったきり、二度とその店に帰り着くことができなかったからなんだ。まあただただ酔っ払いすぎてたという理由にしか過ぎないと思いたいのだが。それにしてもあれはいつのことだったろう?
 
4
 
決して足の届かないプール引きずり込まれようとしている。水の底から触手がいくらでも湧き出てくる。無数の声だって聞こえてくる。
ここでもまた命題が頭をもたげる。一体全体これは夢なのかいや現実なのか?
何度繰り返された問いなのか、問いのために問いかける。答えなどない。答えのない闇の向こう側から由実が僕を呼んでいる。
 
5
 
ボクは目に見えない分厚いガラスを素手で叩き続け、ついにガラスにヒビを入れることに成功する。
それからも何年も続けていると、ヒビは拡がり、ある日ガラスの壁はぶち割れたんだ。
もうその頃には年老いてすっかり爺さんになったボクは、それでもそこから飛んだんだ。
飛び出して落ちてく、上も下も右も左も分からない乳白色の世界で、叫ぶ。
声にならない声で、歌にならない歌で、ようやくありったけの声で。
こんなことならもっと早く大きな声をあげとくんだったよ、こんなことなら、こんなことならね。
それさえも、その行為さえも幻なのかもしれないけど、もうそんなことはどうだっていいことなんだ。
ボクは叫ぶ。ありったけの声で。聞こえるかいボクの声が、聞こえるかいボクの歌が?
 
 
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この観念的なメモを残しておく。(今の自分なりに改変はした)
あとで見てもなんだかわからない感じだろうけどね。
なんだか久しぶりに森田童子の歌が聴きたくなったな。
地平線の向こうにはお母さんとおなじやさしさがある、だからぼくはいつも地平線の向こうで死にたいと思うのです・・なんて歌詞だ。
いずれにしても、何人ものヒトがまた死んでいったね。
死ぬことは決して負のスパイラルではないとは思う。
だって今も死んでるやつだっているし、おれもほんとに生きてないって思う時だって増えてきたと思ったりもするんだ。
 
メモリー・モーテルのための覚書  to the memory motel where she or he died.
〜プロローグもしくはエピローグのためにその4〜
そう、23歳のメモには記されていた。進歩ないなあ。でも核は変わらないことが何故か今の自分には嬉しいんだ。