だからオレは泌尿器科医でおしっことちんちんの医者なんだってば!(2)

生きる速さで書きなぐることができたらいいのだけど・・

#320 奈良の大仏と、一冊の小説と。

 

与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記

9月には奈良に行く予定だ。
 
もう何回目だろう。以前は鑑真和尚を訪ねる旅で「唐招提寺」に行った。
いつも土曜の診療終了後から出かける慌ただしい旅行なのだが、それでも十二分に楽しい。
今回は、数年家から離れていた娘も戻ってきたので、親子での旅になるので、これまた楽しいだろう。
 
若いころは京都に憧れた。今でも憧れている。
 
でも実は古い歴史の詰まった街が最近は恐ろしくなってきた。
知性とか教養のないものが、京都に挑んでも、あの数多の仏像とか自社とかそれらが有する絵画に押しつぶされてしまうのだ。
だから、それなりに勉強してから臨もうとほうほうの体で逃げ帰ってくるのだけれど、訪れるときにはまた同じ思いを抱くことになる。
錦市場若冲の垂れ幕を見上げた時のフレッシュな感慨はどんどんすぼんでゆくなあ。
それでも、恐ろしさと畏敬の念も半分持ちながらも、京都のそんななんだか刺々しくって鮮烈な空気感がやはり好きなのだろう。
 
京都で2年間大学浪人したわけだが、あの時は、冬の鴨川とか、二条城の脇の駿台予備校とか、暗闇の清水寺とか、陽の当たらない東山寮とか、京都女子大の女の子のそぞろ歩きとか、そんなもんしか頭になかったもんなあ。
それらが魅惑の京都から、現実の京都像を自分の中で形作ったのではあったのだけれど。
その京都が、今の自分が探している京都とは全く違う京都であろうとも、それらはどこかでつながっているのである。
 
あの頃は、喰うもんだって、ハムエッグ定食で、時に薄っぺらな紙カツが関の山だったしなあ。
きっと遅く目覚めて漫画を読みながら喰ったあの「ときわ食堂」も今はなく、じいちゃんばあちゃんもこの世にはいないんだろうな。
 
あはは。
 
なので、奈良ののどかな風景とか空気に触れるとほっとする。
かくいうわけで、いつもこの辺りの旅行をセレクトする時、奈良か京都かで迷うのである。
東大寺の大仏さんなんて、多分小学校の修学旅行から何十年ぶりに見たわけだが、ただただすげえなあと思った。
ビギナーはそんなものである。
でも聖武天皇とか、全国から建立のために集められた資金とか銅とか使役の方のこととか、仏教で国を統一するために受戒を授ける師として「鑑真」も招聘されたわけだしとか、いろんなことを知るにつけ、東大寺の大仏もいろんなしがらみの上にそそり立ってるんだなあという複雑な気持ちが自分の裡で膨らむにつけ、奈良という街も、一筋縄では逝かぬ魑魅魍魎の街なんかいなあ怖いなあ、などと、京都と似たような感想に近づいている今日このごろなのである。
 
最近、東大寺の大仏建立のために全国から集められた支丁(三年の労役を課された一般人)と、飯炊きの親方とか、役人とか、豪族を絡めて、描いた小説を読んだ。
澤田瞳子さんの「与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記」というものだ。
 
やや盛り上がりに欠けたが、何の事はない、我々はジェットコースターみたいなドラマに麻痺しすぎているだけのことだ。
実人生がそんなにどんでん返しの繰り返しであれば、落ち着ける場所などどこにもありはしない。
仏とは一体何なのかという、
そんなに哲学的ではない実人生に沿った考察も随所に織り込まれており、
この奈良時代に、国をひとつにするために本当に仏教は必要だったのか、あの巨大な仏像は一体何の象徴なのか、など、どんどんどんどん、疑問が脳裏で広がっていったのだった。
 
だからおれはもっと大仏を見て、その周りの空気を嗅ぎ、知見を深めよう、それが叶うかどうかは別として。
 
やりたいことはいっぱいある、やらねばならぬことも数知れない。
これからの人生で何を取捨選択していくのか、そんなことをやはり考えるようになったのが年老いたということなのだろう。
だがしかしそれはきっといいことだ。
人生が無限ではないが故に、誰しもが等しく死にたどり着くがゆえに、ヒトは今日も何かを探して歩き続けるのだから。
 
(「与楽の飯」より引用)
人はいつか、必ず死ぬ。
行基が世を去り、宮麻呂が世を去りーやがて真楯もまたこの世から消えたとしても、
自分たちが土を捏ね、棹銅を運んで築き上げた毘盧遮那仏は、千年先までこの地に残るであろう。
だとすればこの作事に関わった自分たちは皆、あの巨大なる仏の小さな欠片なのだ。

 

 

与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記

与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記

 

 

あとはご愛嬌の前回なら旅行写真です(2015.12)。
 

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