いつも
どこか
なにかを置き忘れてきた気がして、
わたしは昔、
あの港で、
鎖につながれたまま
奴隷船に乗って櫓を持った。
潮風、燃えさかる太陽、波の向こうの蜃気楼、
指の皮は膨れてすぐに破れ、
とめどもなく吹き出す血と、
破れた背中にも痛みすら感じなくなった頃、
目の前の黒点が広がった。
ただ、
ポルトガルの港で、
痩せこけた女がファドを歌っていたのを覚えている、
そしてその哀しい響きだけが今もここに在る。