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だからオレは泌尿器科医でおしっことちんちんの医者なんだってば!(2)

生きる速さで書きなぐることができたらいいのだけど・・

#353 誕生日が来て、56歳になり、「さしむかいラブソング」というコトバを発掘する。

 
誕生日。56歳になる。
 
片岡義男さんの「さしむかいラブソング」という短編を読む。
誕生日は祝日で、祝日はいつも透析業務だ。毎年のこの繰り返しがいつまで続くのだろうか。
答えは風の中に舞っとるんですかねえ・・てなわけで、院長室の本棚を探してみると案の定古い角川文庫が見つかった。
「マーマレードの朝」という短編集だ。
大街道の古本屋で買ったみたいで、「愛媛堂書店」というシールが張ってある。
リアル古本屋もどんどん消滅してるんだけど、愛媛堂まだあるのかな?
購入は多分S56年。自分がちょうど大学生になってしばらくの頃だ。
 
きっかけは、
先日、Qちゃんの店で、お客さんがはけて放心の中、
カウンター越しに彼女と二人っきりで話してて、ほんとにふと思いついたわけですよ。
「こうゆうのをね、なんていうのかな、さしむかいラブソングっていうんですよ、いえね自分がQちゃんに下心があるとかなんかそういうんじゃなくってもですよ、そのね、だからね、なんかいいでしょ、さしむかいってコトバ」とか言ったとか言わないとか。
 
初期の片岡義男さんらしく、ハードボイルドなラブ・ストーリーだった。
 
ラスト、バイクの事故で全身損傷になり、病室にいるサチオを、売春で捕まりやっと釈放された19歳のミキが訪ねるシーン。
 
薬品の匂いに満ちた部屋に、外の自動車の音が、地鳴りのように聞えた。
しばらく、ふたりは、無言だった。
「おい、ミキ」
と、幸雄が言った。
「はい」
「こういうのを、さしむかいと言うんだ」
食い入るように幸雄を見ていた美紀の、血の気がひいてよけいに美しい顔が、まっ赤な唇から頬そして目と、くしゃくしゃになった。
唇が両側からひっぱられて、「へ」の字にさがり、ぷるぷるとふるえた。頬が急激にべそをかき、両目の下まぶたに涙が盛り上がった。
涙は頬にあふれ、一斉に流れ落ち、頬の途中から、そして唇や顎のさきから、つづけさまに落ちた。いくつもの涙の滴が、美紀のひざに置いたエナメルのバッグに当たり、ぽたぽたと音をたてた。
 

 

もしかしたら、酔っ払って、絵を描いている時、絵の対象の彼女だったり(時には彼だったりします)と、おれは「さしむかい」で、もしかしたら、そのときの二人は「さしむかいラブソング」なんじゃないのかな、なんて思ったんですよ。
一瞬でもいいからそんな時間を積み重ねて、
その濃密な時間の中に、対象の方の笑顔を見つけられたら、それだけでもうオールライトなんじゃないのかな、人生それで十分じゃん、たとえそれがほんの僅かなふれあいでもね。
多分酔っ払って描いてる時の自分は、目の前のモデルさんの顔の中に、その人の人生やらその人のキュートな部分とかハニカミとかそんなものを見つけさせてもらってるんじゃないのかなあ。
だから稚拙な絵ではありますけど、みんなに喜んでもらえる限りはまだまだ「お絵かき」を続けようって思うんですよね。
 
誰かに生かされて、それで誰かを少しでも生かすことができたらな、なんてそんなことを思ったりもするんですよね。
それは本業の医療に関してもおんなじじゃねえか、なんだそういうことだったんだよね。
 
いえね、いつも思ってるわけじゃないんですけどね。