できれば
おれが死ぬときに
空の蒼からんことを
風が凪いで一瞬時が止まり
図体が後ろ向きにどうと倒れこみ
電線の鳥たちが静寂を破り一斉にはばたく
その時に!
彼女は
あなたの一番大事なものをこの場で捨てたら考えてあげるわと
涼しげに笑ってマルガリータを飲み干した
薄い唇を黒い手袋の端でゆっくりと拭う
その黒の上の赤いルージュと塩の線が
真夏の太陽に浮きでた
おれのこめかみの血管とワキのニオイと析出した塩に掻き消されて
その時に!
遠そうで近い
懐かしい風景と香りでここは包まれている
しかしここがどこなのか
そしておれはそこにほんとうに行きたいのか
わからぬままに千鳥足でおれは歩いてるんだ
何か大事なものを置き忘れてきてしまったような
迷子の子供みたいな心もとない
それでもハップな今のおっさんの気分で
その時に、
その朝に、
その夜に、
ああおれの下腹部を満たしているものが涙なのか洟水なのかおしっこなのか血なのかもうわかんないよ
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ずっと同じ所にいるとときおり彼岸が顔をもたげてくる。
おれの中で。
原田芳雄さんは、撃たれて死ぬシーンを撮影するときに、男は後ろ向きに倒れるんじゃないんだ、前を向いて倒れて死んでゆくものなんだと、譲らなかったという。
だけどおれは情けなく、どうと後ろ向きに倒れて朽ち果ててゆくイメージしか浮かばなかったんだよ。
小物だね、やっぱり。
あなたの一番大切なものを壊してあげる、そうしたらやっとあなたはわたしのものになるのよ、
夢の中で女はそんなふうに笑ったんだ。
それでもね、頭のなかをアルコールで満たしてると、そんなことはどうでも良くなっちまうんだけどね。
写真は、またporokichiさんのをお借りしました。サンクスです。
だからサブタイトルは、「pirokichi劇場その④」かもです。