#290 ByeBye、空の友達
訃報は突然やってくる。
思いがけないところから、ほんと後頭部をいきなり鈍器で殴られた感じで、訪れる。
医者だからってひとの死に慣れてるわけではない。
感覚は確かに鈍麻しているかもしらんけどね。
こんな稼業をしてると患者さんもいなくなってゆく。
中には歳とって通院が不可能になる人だっている。だからそんな方たちがどうなっていってるのかは実は全くわからない。
悪性の疾患で死んでいく人だっている。
そんな、いなくなることを避けられない疾患のヒトにどう声をかけていいのかわからないのまま、声をかけている。
そのコトバが果たして患者さんにどう捉えられるのかなんてわかりっこない。
医者にできることなんてほんとわずかだ。
小指の先くらいだ。
でも、馴染みの店もいつか消えたり、そこにいたヒトもいつしか自分の周りからもいなくなったり、そんな事象と「死」が誰かをつれてゆくこととは、そんなには変わらないような気もする。
消えたヒトは死んだにも等しいからね。
でも、もしかしたらまた会えるかもしれないという一縷の望みは残されるから、やっぱり違うのかなあ。
いずれにしても人間の最終地点は決まってる。
だからこんなにも焦って生きるんだよ。
生きて、笑って泣いて、一緒に酒を飲んでどろどろになったりするんだよ。
死んだらもう会えないもんね。
不意打ちで予測を超えてやってくる死には、今みたいに、あんぐり口を開けてしょうもないコトバを並べ立ててる。
彼とはたった数年の付き合いだった。リアルでお会いしたのは多分数回だろう。
でも、どこかでつながっていたような、そんな気が錯覚だとしてもしていたんだ。
水臭いよね、勝手に逝くなんて。
例えば死んじゃって、あっちの世界で飛行機に乗ってCAしてるだろうあの娘にももう会えっこないのはわかってる。
彼女の最後の言葉は「みんなで幸せにしてくれて、ありがとう」っていうものだったんだって。
なんできみは最後の最後までこんな素敵な言葉を残してくんだよ。
思い出すと哀しい。でも哀しくってもおれはもう若かりし頃のように死にのこのこついてくことはしないよ。
あの世はないからもう君たちとも会うこともないけど、おれのなかには何人もの「死者」が生きてるよ。
まったく矛盾した話だね。
哀しい、だけど寂しくはないよ。
あはは。
とりとめのない駄文でした。