新聞で見たのだった。
現代美術館が町立であるのだと。そこでは体験型でアートに触れることができるのだという。
こんなよだれものの空間が、あるというのだ。いわばなんにもない場所に。
その場所は、岡山の北部で、美術館の名は「奈義町現代美術館」という。
今回の旅はそこにゆくという望みから始まった。
それだけから膨らんでいった。
そこに辿り着く前に、作東町の美術館に立ち寄ることにしたのだった。
美術館らしい建物なんてない。
庁舎の一部、図書館の2Fにその美術館はあった。
失礼だけど、なんでこんな田舎にという感じだけど、ロビーにはロダンの彫刻も普通に鎮座している。
絵を見てまわっていて、
90すぎまで愛をモチーフに描き続けたこの画家が愛おしくってたまらなくなった。
絵があるから、もしかしてそれだけの長寿を生き得たのではないかと、確信もなく思った。
いやこれだけの絵を描くというか、愛のモチーフを想起できる感性と頭脳があったから、生きたのだ。
それはシャガールをも想起させた。
だから、酔っ払って描くおれの絵も捨てたもんじゃないかもね、とも。
絵を見て、なんだか懐かしい気持ちになった。
そして、ある絵の前で止まって、はたと思い出したのだった。
そうだ、この絵は、薬局のN先生が、記念でうちの病院にくださったあの絵だよ!
海の上のボートの上で恋人たちは見つめ合い、水の中に映し出された自分たちを見ている。
「恋の湖」というリトグラフだ。
その絵はうちの病院の受付の壁に飾られている。
「 私たちほど愛し合っているカップルはいないわね 」「 そうかな、見てごらん、水の中を… 」
こんなにもおれの身近で、ペイネの恋人たちは愛を囁いていたのだ。
愛はここにある、きみはどこにもいけない
これは玉置浩二さんの歌だけど、ね。そんな感じ。