#438 診断書を書く。なにかを思い出す。なにかを忘れる。繰り返す。ただ繰り返す。聡明でもなく、愚かしさでもなく。
患者さんが亡くなられる。
ご臨終を告げ、処置させていただいて、マジマジと患者さんの顔を見る。
迎えが来るまでの間に死亡診断書を記入する。
反芻するって方がふさわしいかな。
お見送りをする。
深くお辞儀をする。スタッフにお疲れ様という。
なかなか忘れそうで忘れられない。でも忘れている。いつの間にか記憶の奥深くに埋没してしまっている。
そんなときに、忘れた頃に、また保険会社の「診断書」の依頼が来る。
ボールペンで記入しながらまた反芻する。
そんな今日。
中島みゆき姉御の、忘れられない歌を突然聞く、というあれだね。
この歌の趣旨とはちょっと違うけど、
書類を書いてると、ホントに不意打ちされたようにいろんなものが突然頭の中に湧いてきて、
湧いてきはじめるとそれはとめどもなく、そんな時はほんとに身のやり場に困ってしまうんだよ。
死んでしまったはずのあの人はもうこの世にいない。
消滅てしまって魂なんてないはずなのに、でもその人が今もどこかをさまよい続けてる、そんな空想に苛まれるんだよ。
診断書を書いている刹那に、その人以外の今まで色々通り過ぎていった人たちも、自分の前をまた通り過ぎていくんだ。
まあ、自分だけではなく、みんなが同じような感慨を抱きながら、仕事してるんでしょうねえ。
聡明でもなく、愚かしさでもなく。ただそんな営為の中に人は生きているのだと思う。