#153 夢を見て目覚めた。
夢を見て目が覚めた。
目が覚めたら、列車の中だった。
それも普通の電車。なのにえらく速い速度で走ってる。 周りには知り合いが座ってくっちゃべっている。
みんなだいたいおんなじ駅でおりるはずなんだけど、ふと見ると、 ちっちゃな女の子がごそごそと手袋を探している。
彼女と一緒に、吊り棚とか、床とか覗いてるうちに、 気が付くと友達はみんな降りてしまって、すでに電車は動き出している。
ああそれもしかたがないことだったんだなあ。
これもあれもどれもそれも大きな流れの中の一コマなんだから、自分が今更じたばたしてもどうにもならんのよなあ。
などと、なぜか醒めた台詞を頭のなかで呟いている。
「お母さんは?」と聞くと、
彼女は首を横にぶんぶんと振って笑うのみだ。
「あのね、キライなヒトとでもいっしょに生きてかなくっちゃいけないの?」
なんてこむつかしいことまで言う。その笑顔、やっぱりどきどきとするじゃないの。
いや、おれはいたってノーマルのおじさんだからね。などと自分に言い訳してみたりする。あはは。
「さあねえ、おじさんには難しすぎてわからないけど、好きなことを考えて生きてくことが一番大事なんじゃないの」
なんて、おいおい、またムツカシイ切り返ししてるよ。
自分だって、好きなことだけな人生じゃないし、大人は多かれ少なかれみんなそうなんだよ、お嬢ちゃん。
おれだって逃げ出したくなることあるけど、やっぱりきちんとホテルに帰って、荷物をまとめて、早く空港までいかないと、 飛行機に間に合わないし、うちにも帰れない。
うちに帰って何があるのか?
職場に帰って何があるのか?
フリーズしちゃうじゃないか。
お嬢ちゃん、きみの問いは、だから、難しすぎるんだってばあ!
そもそもいったいここはどこなんだろうな?
電車が風を切る音がして、あたりはだんだん曖昧になり、女の子はいつしか手を握って自分を見上げている。