#369 羊たちの沈黙(1991)
なんとなくの気配に目を覚まして
遠くの薄闇が紫に変わる空の端を、
あのひとが長いひらひらをつけて昇ってゆくのを感じた。
「クラリス、まだ羊の悲鳴が聴こえているか?」
「クラリス、今夜は深い眠りの中にいるかい?」
目を閉じて、また闇の中に潜っていこうとした時、
あの娘は一度だけ振り向いたんだ。
でも、あの娘の唇が開きはじめてなにかの言葉になるその前に、
もうオイラは深い眠りの中、
今度目が覚めたら全部忘れてることだろう。
それでもいいんだよ、またこうやって会えるなら。
消滅したから罪が消えるものではない、
それはオイラもあの娘も知ってるよ。知ってるよ。
枕が濡れていようがいまいがそれももうどうでもいいことさ。
「クラリス、羊の悲鳴は決して消えはしないよ」
「博士、わかってる」
*********************************************************************
2本作に続く作目の映画「ハンニバル」にはジョディ・フォスターは出なかったそうだ。たしかその映画も見た記憶があるのだけれど・・。
原作本を院長室で見つける。1991年に購入したものだった。また昔に潜っていかんとあかんなあ。
クラリスの中から、なにかは結局は出てはゆくことはないのだろう。
いつも書くように、他人とか、狂騒は、媒介でしかない。
それをきっかけにいかに自分が変容していけるか、それしかないのだと思う、たとえそれが滅びだとしても。
人間という種が「消滅」に向けて歩んでいこうとしているのかもしれないと思う昨今でもあるが、
最近では、人間が自らそれを望んでいるのかもしれんなあとも思ったりしている。
滅んでもいいと思うのと、何かを手に入れようと進歩し続け得るのは、実は同じまな板の上なのではないかと・・。