街に夜と朝の間の空気が敷き詰める頃、ポーは歩き始める。
アルミ缶を集めてお金にするんだ。
ポーはずっと船を待ってる。
順番が来ないと乗れないんだが、なかなか順番は来ない。
気にかけてくれる人もいたけど、みんな先に舟に乗るか、先に死んじまうかしちまった。
ポーは騙されてるんだと疑うこともなく、船の順番を待った。
ポーのことを気にかけてくれてた役場の係だった青年はもうとっくに引退して、その息子がやはり役場に入ってその課に配属され課長になる前に、やっと順番が来た。
彼は慌てて、ポーを探した。
ポーは、顔を上げて、彼のよく知っている男の息子に言ったんだ。
「おれには船で旅してく時間はないんだよ」
船がどこに行くのかは誰も知らない、だって帰ってきた人なんて誰一人いないんだから。
ただこの町の人間は、恋人がいようが、家族がいようが、一人ぼっちだろうが、船の順番が来たら船に乗ってこの街を出てゆくことになってて、今の今までそれに疑いを抱く人間なんてほとんどいなかったんだから。いないわけじゃないけど、そんなヒトは変わり者だとか人生を捨ててるとかやゆされて、ヒトはそういう人間は見えなかったこと見なかったことにして直ぐに口を閉ざした。
もちろん辞退すれば順番は繰り上がるのは当然のこと。
役場の係だった男は結婚して息子が生まれた時に権利を放棄した。だから彼も課長以上の出世はないだろうって話になって、そのまま流言飛語はぴたっと消えた。
でも順番の来なかったポーはずっとずっと待ち続けてたんだ。
腰が曲がって目がほとんど見えなくなっても。
でもそんな時間の中でポーはもうとっくに自分のことをわかってたんだ。
だからポーはまだこの街で生活してる。
ポーが乗らなかった船が港を去ってこの方、船は帰ってはこない。
人々はため息をつくことが多くなった。ただそれが暮らし向きに何かをもたらすなんてことなんてありはしない。
どんな物語にも終わりはあり、そして終わりがあれば始まりはまたやってくるんだから。