#429 「ビートルズの優しい夜」小林信彦
小林信彦「ビートルズの優しい夜」(S57)という本を何故か再読し始めた。
短編集なので、暇がある時に1編ずつ読んで、今日ようやく読み終えたのだった。
「ビートルズの優しい夜」(1966)「金魚鉢の囚人」(1974)「踊る男」(1978)「ラスト・ワルツ」(1982)から成り立っている。
そして、ジョン・レノンがチャップマンに射殺されたのは1980年のことだ。
自分はその翌年に大学に入学したのだった。
TVの黎明期からその1982年までを、自らのクロニクルのように小林信彦氏は描いた。
今、なぜこの文庫本が脳裏に浮かんだのかは不明だ。
でもそういえば、こんなタイトルの小説があったよな、と、探して、本棚に埋もれているのを発掘したのだった。
そして、小林氏の描いた時代から、今も、我々はこの「狂詩曲(ラプソディ)」を踊り続けている。
もう、いい加減、舞台から降りてもいいんじゃないのかい?
毎日、心の奥底でそう呟く男の声を聞く。
肩の力を抜いて、ゆっくり目を閉じて、大きな呼吸をするんだ、それだけでもずいぶん違わないかい?
力の抜き方をとっくに忘れてしまった。
酒に麻痺させられて弛緩していると、眠っている時間が、それに近い行為のように思う。
ジョンが歌ってた歌を、時々思い出す。
Stop bleeding now 血が流れるのを誰か止めてくれよ
最後のページに「生きながら埋葬されてゆく時代の・・」という言葉が記されている。
もうそんな言葉なんて聞き飽きたような気もするけど、
この4篇のstoryの最後に配備されたこのセンテンスは、やはり今でも、ちょっと胸の奥のしこりを刺激する。
力の抜き方を忘れてしまった今では、もう鈍い痛みでしかないけれど・・。