#285 Y教授の退任祝賀会と、12歳のヴァイオリニストと、愛媛大学泌尿器科学教室と。
大勢のえらい先生方が一同に介し、一応泌尿器科医局員である我々も末席に列席する。
何年かぶりに会うような県外の先生たちの顔もちらほら見受けられる。
平成10年に教授になられたので、Y先生との付き合いもそりゃ長いわけだけど、
そこには自分の知らないY先生がおられたからだ。
自分が学生の時に、すでに脳出血で倒れられた先代の教授であるT先生も、女好き・手術むちゃうま・TURの神様・なんぼでも飲む・洒脱・・などと形容詞がついていたみたいだけど、自分が入局して知った教授は、半身麻痺のおっちゃんだったからなあ。
だから、現役時代の彼の知らざる部分もたくさんあったのだろうけど、
それがどういったものなのか知らないまま彼とも何年か前にお別れした。
でも、T先生の講義係として大学で過ごした何ヶ月かの期間は、教育者としてのT先生ともディスカッションすることができて、得るものもたくさんあった。
講義中に熱弁振るわれるとよだれ出ちゃって、そのたびにティッシュで拭いにいくわけだけど、はじめはその行為も自分にとっては非常に辛かった。
でも、それを辛いと思う事自体が一番T先生に失礼なんだと途中で気づいた。
平成13年、自分が開業するときには、「彼は医者をやめて金儲けをします」とか挨拶で言われてホントへこんだよなあ。
ま、先生なりのユーモアではあったんだろうけど。
そんなこんなが錯綜する一日でした。
その会で、なんとピアノ・バイオリン演奏があったんだけど、
ピアニストの江崎昌子さんに続いて、
バイオリニストの江崎友紀くんという12歳の少年がさり気なく登場したのだけれど、その演奏にはもう目が潰れそうだった。
彼は何でも世界で12本の指に排卵とするコンクールに挑むそうで、
そりゃあそりゃあ素晴らしい少年で、でもあどけない顔のじゃりんこで、
自分は酔いも手伝って、ずっと彼の隣に腰掛けて座って喋ってましたよ。
3rdポジションのことととか、ボウイングのこととか、顎で楽器を支えることとか、いろいろ初歩的なことを聞きましたよ。
彼の愛器を触らせてくれて弾いてみませんかとピアニストの方が言ってくださったので、とんでもないですとひれ伏したりもした。
すっごく良い(そしてとっても高価な!)楽器でフランスで買ったんだそうな。
楽しいか?って聞くと隣のお父さんがそれが結構辛いんよなあとか言ってたけど、それでもやっぱり楽しそうな顔してたよ。
少年よ!おじさんもなあ、バイオリン再開して2年なんだけど、頑張るよ、とか言って、5回くらい握手してもらった。
いやあ、何回も言うけど音楽はいいよねえ。
ほんとは音楽の世界の熾烈さは、医者の世界の比どころではないんだろうけど、ね、
彼の目指している先はおれなんかにはきっと想像もつかない世界なんだろうけどね、
できればあの純粋な瞳で頑張り続けて欲しいもんだと、
へべれけのオッサンは思ったのですよ。
愛媛大学ファミリー以外の教授を迎えることになる。
それがなにを意味するのか全くわかっていないが、T先生の作り上げた「血」の時代は、Y教授の退任でひとつの節目を迎えたのかもしれない。
それでもやはり人生は続いてゆき、他になんの取り柄もない我々は粛々と泌尿器科として生きてゆくのだけど。