#694 「ハナレイ・ベイ」
何かに赦された時とか、
何かに祝福されているのだと感じる時に、人は人生の肯定感みたいなものを感じる。
でもそれは人間が作った尺度でしかない。
それでいいのだと思う時もあるが、
そんなことに関わっていてちまちま言ってても、
どうせ行き着く先は「死」なんだから意味なんてないと思うこともある。
おれがいなくなっても、
よほどのことがない限り、石鎚山はそびえつづけ、そこに人は登り続けるだろう。
信仰や学問は死なない、愛は死なない、
でも自分がいなくなった後のそれを確かめる術はない。
だからいいのかもね。
そういうことだ。
でも、そんな、たった何十年か生きただけの生活の中でも、
自分に垢を塗るのは自分でしか無いのだ。
手垢のついた分だけがその人の歴史だ。
吉田羊さん主演の「ハナレイ・ベイ」という映画を観て、
村上春樹さんの原作を、何度目かで読む。
祝祭も、贖罪も、手垢も、全てがあり、全てが無い。
目を閉じて、おれも、ショアをよぎる風を感じることができる。
ハナレイ・ベイ。